秘密の出産が発覚したら、クールな御曹司に赤ちゃんごと愛されています
受話器を持ったまま静かになったふたり。
何か用があったのでコンシェルジュカウンターにかけてきたに違いない、と用件を聞くことにする。
「小野寺さま、いかがされましたか?」
『……クリーニングを頼みたい。たくさんあるから、部屋まで取りに来てもらっていいか?』
「かしこまりました」
これは仕事。ちゃんと割り切らなきゃ。
クリーニングする洋服を入れるキャスター付きのボックスを転がしながら、直樹が住む最上階のフロアへと向かう。
こういう依頼は多く、依頼された住居者の扉の前までこれを持って向かう。
そして入れ終わったものをカウンターの奥にあるクリーニングルームへ持っていき、クリーニング専門のスタッフに頼むという流れだ。
いつもの仕事なのに、今日はとても緊張している。
緊張というか、落ち着かない。胸がうるさいほど鳴って、体にはじんわり汗をかいている。
会ってはいけないのに、直樹に会えるという喜びと、また嘘をつかなければならない苦しさ。複雑な感情が混ざり合って、まだ冷静になれない。
大きな音で鳴る鼓動を落ち着かせるように、胸に手をあてて深呼吸した。