秘密の出産が発覚したら、クールな御曹司に赤ちゃんごと愛されています
立ち上がってエレベーターに乗ろうとボタンを押すと、友里が近くを通ったので、すかさず声をかけた。
「お疲れ」
「……お疲れさま、です」
「また敬語。普通に話せよ」
敬語で話されると、距離を感じてイラつく。俺たちは元恋人なんだから、今更よそよそしくしなくてもいいだろう。
それとも、過去のことを負い目に思ってそうしているのか?
「ごめん。仕事中だし、他の入居者さまに聞かれたら、あなたとだけ親しくしているって思われたら困るの」
「そういうこと……」
俺と親しくしたくないから、そうしているのかと思ったけど、そうではないらしい。
なんだ、そういうことか。
あ、今何でホッとしたんだ。ああ、もう。
何か話そうと頭の中で考えを巡らせる。そうだ、と切り出す。
「松岡サンって、子どもいるんだ?」
「え……」
「ママチャリで出勤してるよな?」
朝、近くのコンビニに買い物に出ていたら、チャイルドシートつきのママチャリに乗った友里を見かけた。
制服のときには分からなかったけど、カジュアルというか……ママなんだろうなと思わせるような身動きの取れやすそうな格好をしていた。