マリッジリング〜絶対に、渡さない〜
近付く距離
『じゃ、いってきまーす!』
気持ちに蓋をしたあの日から、約一週間後。
『大地、お弁当忘れてる!』
玄関を出ようとしたところでギリギリそう言って呼び止めると、ハッとした顔で大地は振り返った。
『助かったー、俺のパワーの源!』
持つのを忘れていたくせに、調子が良い。
だけどクシャクシャな笑顔を向けられると、自然と私も笑顔になってしまった。
『パワーの源なら、忘れずにしっかり持っていってよね』
『はい!以後気をつけます!』
お弁当の入った袋を手渡すと、大地はややオーバー気味なリアクションで敬礼ポーズをとった。
『本当、調子良いんだから…』
『ははっ、じゃあ今度こそいってきます』
『うん、いってらっしゃい』
いつもと同じような、普通の朝だった。
いつもと同じように、大地の後ろ姿を見届けて。
その後も、いつもの日常が過ぎていった。
学校に行く亜実を見送り、幼稚園バスの停留所まで亜矢を連れていって。
帰宅したら洗濯物を干し、それから家の掃除。
お昼は適当に余り物で済ませ、亜矢のバスのお迎えまでにスーパーで買い物を済ませると、幼稚園から帰ってきた亜矢を景子と玲ちゃんの子供達と公園で少し遊ばせ、亜実の下校時刻に合わせて帰宅。
全て…いつもと同じように、私の日常は流れていた。
日が落ち、空が暗くなったその時までは。