マリッジリング〜絶対に、渡さない〜
『ただいまー』
午後七時。
玄関から聞こえた声で大地の帰宅に気付いた私は、鍋の火を止めキッチンから出た。
『おかえりー』
そう言いながら廊下に繋がるリビングのドアを開けると、大地は慌てた様子で私にカバンを渡してきた。
『え?何?』
『や、熱があるんだって』
『熱?』
意味がわからず、首を傾げた。
『リュウ君、熱があるらしくて。39度あるんだって』
リュウ君が、熱?
39度って、結構な高熱だ。
でも、どうしてそれで大地が慌ててるの?
つまらない劣等感で感情が揺さぶられないよう、あの日からはほとんどあの親子に関わることもなく過ごしていた。
だからこそ、少し動揺してしまった。
『熱…そうなんだ?で、何で私に今カバンを渡したの?』
『や、だから』
『何?』
『今から病院連れて行ってくる』
病院?何でわざわざあなたが?
出てきそうになる言葉をグッと飲み込み、冷静に口を開く。
『何で熱があるって知ってるの?リュウ君ママに会った?』
『いや、会ってないけど』
会ってない?じゃあ何で熱があることを知ってるの?