マリッジリング〜絶対に、渡さない〜
 

『でも…彼女はずっと泣いたままだし、リュウ君はグッタリして寝てるっていう状態で。動けないまま、十分近くかな。泣き止むまで待ってたんだけど…』


大地はそう言うと、はぁっとため息をついて話を続ける。


『このままじゃいつ帰れるかわかんないなって思ったから、俺がリュウ君抱いて家まで連れて行くよって言ったんだ』

『家まで…』

『…うん』


結局大地は、リュウ君を抱いて彼女たちが住むアパートの二階まで上がっていた。

そしてリュウ君を寝かせるため、家にも入ったらしい。


『それで、リュウ君を布団に寝かせたから、やっと帰れることになったんだけど…』

『けど?』

『玄関を出ようとしたら、いきなり後ろから、その…』


大地の表情だけで、よからぬ想像が頭に浮かんだ。
言いにくそうな話し方をされると、良い話ではなさそうだと嫌でもわかってしまう。

でも、ちゃんと聞かなきゃ。
聞かなきゃ、何があったのかを疑ったまま、ずっと何かが引っかかったままになる。


『…突然、後ろから抱きつかれた』


だけどその言葉を聞いた途端、頭の中は真っ白になって。

彼女の姿が、大地に後ろから抱きついているその姿が浮かんで…どうして?と、ただ、強くそう思った。


『何でいきなりそんなこと…』

『俺も本当に驚いちゃって…最初は、固まって。でも、これはありえないって、ハッとして』


大地はそう言うと、ジッと私を見つめて。


『困るって言ったんだ、そしたら…ごめんなさいって。そういうつもりじゃなくて、優しくしてもらったことが嬉しくてって。リュウ君に何かあったらどうしようって、一人親だし…不安だったみたいで』


到底、理解出来なかった。

一人親で不安だからって、既婚者相手に抱きつくなんて絶対におかしい。
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