マリッジリング〜絶対に、渡さない〜
そしてそれは、数日経っても変わることはないままで。
『明日、十一時には用意しておくから適当に来てだって。って、おーい!亜紀聞いてる?』
キッチン側からソファーに座る大地の姿をボーッと見ていると、いきなり手を振られハッとなった。
『えっ?ごめん、何だっけ…』
『明日の時間』
『明日……?あ…』
『慎ちゃんが、十一時には焼ける用意までしておくから適当に来てってさ』
そう言われ、玲ちゃんの家で明日バーベキューすることになっていたことを思い出す。
『あと、さっきLEINで聞いたんだけど、慎ちゃんとこ、庭用にラタン調のテーブルセット買ったんだってさ』
『…そうなんだ』
『どんなのかな?』
『玲ちゃん…緑いっぱい育ててるし、あのお庭に合うオシャレなテーブルなんじゃない』
『うん、オシャレなのは間違いないよな。慎ちゃんち、あるもの全部オシャレだもん』
『…だね』
『楽しみだよな、明日が』
『…そうだね』
私がそう答えると、大地はこちらを見つめたまま寂しそうに笑う。
そして私はその顔を見て、思わず目を逸らしてしまった。
会話のキャッチボールは、ちゃんとしているつもりだ。
話せば続くし、一見普通だと思う。
だけどあの日から。
上着の件の真相を聞いたあの日から…ほんの少しだけ見えない何かが変わっていて。
大地は以前と変わらず普通にしているけれど、私の大地への接し方がどこか変わってしまったのかもしれないな、と今の大地の顔でふと感じさせられた。