マリッジリング〜絶対に、渡さない〜
不安と嫉妬と劣等感
「疲れた?」
視界の端からひょこっと現れた大地の顔に、ボーッとしていた頭がハッと我に返った。
止まっていた手を慌てて動かし、洗い物を再開する。
そして冷静に笑顔を作ると「何で?」と、大地に問いかけた。
「いや、何かボーッとしてるから。珍しくこんな遅い時間になったし、ちょっと疲れたんじゃないかなって」
そう言われ、キッチンに置いてある時計に目を向ける。
「あぁ…そうかも」
言いながら、あと数分で日付けが変わろうとしている時計から洗い物に視線を戻す。
そして私は、リュウ君ママが使っていたワイングラスを手にした。
グラスの飲み口に残る、ピンク色の口紅跡。
それを見つめながら小さく息を吐くと、手にしていたスポンジで一気にその跡を消し去った。
「何か手伝おっか?」
「ううん、それより早くお風呂入ってきたら?」
密かに苛立っていた心とは裏腹に優しく言葉を返すと、大地は「わかった」とすんなりキッチンから出て行った。