マリッジリング〜絶対に、渡さない〜

初めて交わした言葉は、入社式の後のごく普通の自己紹介。


「工藤大地です、よろしくお願いします」
「間宮亜紀です、こちらこそ、よろしくお願いします」


その時の大地の第一印象は、背が高くてスーツが似合う、とにかくスタイルの良い人、という感じで。
一目見て、何かスポーツをしていたんだろうなと勝手に想像が膨らんだ。

がっしりした肩幅に、服を着ていてもわかる鍛えられた腕。無駄な贅肉など少しもなさそうな身体は男らしくて格好良かった。


「あの…そういえば聞いてみたかったんですけど、工藤君って身長何センチなんですか?」
「え?あ…183センチですけど」
「183!?やっぱりそれくらいあるんですね、ずっと高いなぁと思ってて」


同期として出会い、同じスタートラインに立った私たちは、入社後すぐに始まった新人研修の最中、仕事とは全く無関係な話をコソコソと話していた。


「間宮さんも、結構高くない?何センチあるの?」
「あぁ…私は173です。女のくせにデカイでしょ?ちょっとコンプレックスなんです」
「何でコンプレックスなの?」
「何でって…嫌じゃないですか?大きい女って」
「え?何で嫌なの?俺は好きだけどな、背が高い女の人」


背が高いことが、昔からずっとコンプレックスだった私にとって、大地が返してくれたその言葉はただ素直に嬉しかった。

気を遣って言ってくれただけかもしれない。
そうでも言わないと…と、空気を読むように言葉を選んでくれたのかもしれない。

でも、それでも。
その言葉は、私の胸の中にスーッと溶けるように温かく広がっていった。
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