マリッジリング〜絶対に、渡さない〜
 
『リュウ起きて、おうち着いたよ』

『ん…』

『ほら、起きて』


リュウ君ママは寝ているリュウ君を揺すりながら声をかける。
だけど、そのまぶたはなかなか開かない。

『ゔーっ、ん…』

少しぐずったような声だけが返ってきて、思わず顔を見合わせた。

『疲れただろうし今寝たばかりだったら起きないだろうね』

『そうですよね…仕方ないです、抱っこして帰ります』

リュウ君ママは諦めたようにそう言うと、リュウ君の両脇を抱えて抱き上げた。

こういうのは、よくある話。
亜実はもうほとんどないけれど、亜矢は似たようなことがまだまだある。
抱っこやおんぶは幼い子を持つ親ならば日常的なものなのだ。

だけどそれを見ていた大地がふと口を開いた。


『大丈夫?二階まで抱っこしながら上がれる?』

『あぁ…上がれる、かな?』

『本当に?いける?』


大地はきっと、本当に優しさで言っている。
いつも亜矢が甘える時はもちろんのこと、ぐずったり眠くなれば抱っこしてくれるし、私が抱いていたらすぐに代わってくれたりもする。

そう。優しいから…こうして手を差し伸べようとするんだ。

でもその優しさは、必要以上に振りまいて欲しくない。
そう思った私は、咄嗟に声をあげていた。


『あ!私手伝うよ。リュウ君ママ、カバンとかボールもあるし、大地は先に亜実たちと家に帰ってて』

これが一番、最善だと思ったから。
< 99 / 193 >

この作品をシェア

pagetop