マリッジリング〜絶対に、渡さない〜
『リュウ起きて、おうち着いたよ』
『ん…』
『ほら、起きて』
リュウ君ママは寝ているリュウ君を揺すりながら声をかける。
だけど、そのまぶたはなかなか開かない。
『ゔーっ、ん…』
少しぐずったような声だけが返ってきて、思わず顔を見合わせた。
『疲れただろうし今寝たばかりだったら起きないだろうね』
『そうですよね…仕方ないです、抱っこして帰ります』
リュウ君ママは諦めたようにそう言うと、リュウ君の両脇を抱えて抱き上げた。
こういうのは、よくある話。
亜実はもうほとんどないけれど、亜矢は似たようなことがまだまだある。
抱っこやおんぶは幼い子を持つ親ならば日常的なものなのだ。
だけどそれを見ていた大地がふと口を開いた。
『大丈夫?二階まで抱っこしながら上がれる?』
『あぁ…上がれる、かな?』
『本当に?いける?』
大地はきっと、本当に優しさで言っている。
いつも亜矢が甘える時はもちろんのこと、ぐずったり眠くなれば抱っこしてくれるし、私が抱いていたらすぐに代わってくれたりもする。
そう。優しいから…こうして手を差し伸べようとするんだ。
でもその優しさは、必要以上に振りまいて欲しくない。
そう思った私は、咄嗟に声をあげていた。
『あ!私手伝うよ。リュウ君ママ、カバンとかボールもあるし、大地は先に亜実たちと家に帰ってて』
これが一番、最善だと思ったから。