時には優しく…微笑みを
出かけた先で、彩奈と呼ばれた人と会った夜。私はなんだか寝付けなかった。

誰なんだろう。
私が気にすることではないんだろうけど。

コンコン

控えめに、ドアがノックされた。

「はい…」

「寝たか?」

「い、いえ…」

「寝付けなくてな、飲もうかと思ったんだが、一緒にどうだ?」

「……いえ、疲れてるんで寝ます」

「そうか、悪かったな、おやすみ」

「おやすみなさい…」

部屋の前から、課長の気配が消えた。
一緒に飲んでしまったら、多分聞いてしまう。
「あの人は誰ですか?」
と。聞ける訳がない、私はただの部下なんだから。…寝よう、寝てしまおう。

無理矢理目を瞑り、寝る事にした。


何時間経っても眠れなかった。
気になって仕方なかった。
なぜ?どうして?こんなに気になるの?
心に芽生えた気持ちがなんなのか、ただの興味本位なのか、まだ私は分かっていなかった。


「うー、寝不足…ひどい顔、最悪」

結局、一晩眠れなかった。
こんな事なら、課長と一緒に一杯飲めばよかった。その方が眠れていたかもしれない。

顔を洗い、服に着替えてリビングに行くと、課長が起きていた。

「あ、おはようございます」

「…おはよう。今日は先に出るから、戸締りだけしててくれ」

「…え?あ、は、はい。行ってらっしゃい」

「えっ…あ、行ってきます」

課長は少し驚いたようだったけど、そのまま会社に行ってしまった。
今日、急ぎの案件入ってたっけ?
不思議に思いながらも、私は朝ごはんを食べてから会社に向かった。
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