時には優しく…微笑みを
そこで待ってろ、と言われ帰りますとは言えず、言われた通り帰る準備をして課長が仕事を片付けるのを見ていた。

そうなんだよなぁ、こうやって見てると確かに、イケメンだしみんなが言うように騒ぐのも分かるな…
あ、課長の手って大きくて暖かそう。あの手で頭ポンポンされたら、速攻落ちちゃうよね、きっと。うん。
それで、今回みたいな事があったら、俺の家に来いよ、とか言ってくれて、同棲とか?きゃー…ふふっ。

「…櫻井?」

朝ご飯とかも…

「…おい、櫻井!聞いてるのか!」

「へ?は、す、すみせんっ」

昨日からの疲れで、妄想に浸っていた私は課長の声で現実に引き戻された。

「大丈夫か?行くぞ」

「あ、はい」

慌てて、課長の後をついて行った。

どこに行くのかな、課長。
課長が連れて来てくれたのは、会社の人達ともよく行く居酒屋だった。

「ここでいいか?」

「あ、はい」


しかも、2人だって言うのに個室に案内されてしまった。
空いてるのが、そこだけと言う理由で…
2人っきりって、余計に緊張するじゃない!ただでさえ、課長との食事なのに…

「櫻井?」

「は、はい?」

「お前、表情がコロコロ変わってるぞ。そんなに顔に出るタイプだったか?」

「え、あ、そう、そうですか…すみません」

両手で顔を隠した。
そんな所まで見られているなんて、恥ずかしい。

「ハハッ、ま、俺と食事じゃ無理ないか?」

「え?いや、そんなっ…」

「鬼だからな、俺は。喰われるとか思ってるのか」

「あ、はい、…っ、いやいや、そうじゃなくて…」

慌てて返事をしてしまい、両手を振って否定した。
それを見た課長は、

「ハハハッ、あ、悪い。俺が鬼だって言われてる事は知ってるよ。厳しいのは事実だしな」

こんな顔して笑うんだ。
お酒を飲んでるせいもあったのか、課長から目が離せなかった。

「櫻井、俺の指導どうだった?」

「え、あ、菅野課長は、厳しいですけど、いつも正しい事を言ってくれてるって事は分かってたんで、ついていかなきゃって思ってました。だから、今、みんなから仕事を任してもらえてるのかな、って、自意識過剰ですかね…」

自分で自画自賛して、恥ずかしくなった。

「そうでもないんじゃないか、さっきだって急ぎの仕事頼まれたって言ってたじゃないか。みんなが認めてる証拠じゃないか?今日の俺の書類だって助かったよ。よく出来てるって、俺も鼻が高かったよ、ありがとうな」

「え?いや、あの…」

褒められる事に慣れてない事と、課長に褒められてるって言う事に、軽くテンパってしまった。

どうしよう、嬉しすぎるんですけど。


あかん、どうしよう。
めっちゃ嬉しい!

心の声が騒ぎ出していた。
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