時には優しく…微笑みを
「え?な、なんで…」

次の日、会社に出た私は取引先の会社の担当者に会って、驚いた。
私の隣に立っていた課長も同じように、驚きで声が出ていなかった。

「おはようございます。今回取引させていただきます。神木物産の営業担当の片岡です。よろしくお願いします」

営業係長 片岡の名刺を課長に手渡した、彩奈さんがそこにいた。

「あぁ…っ、課長の菅野です。確か担当の方は藤城さんではなかったですか?」

「藤城は他の案件を抱えていて、こちらに不手際があるといけないので、補佐である私が担当させていただく事になりました。いけなかったでしょうか?」

課長の動揺が分かっているのか、彩奈さんは続けた。

「元々、私が担当する予定だったので、そちらにご迷惑をおかけする事はないかと思います。お話を進めさせていただいてもよろしいでしょうか?」

ここまで言われてしまうと、長く取引実績のある神木物産なだけに、課長も何も言えないでいた。

そして、お茶を出していた私に彩奈さんが気がついた。

「ありがとう…あら、あなた…」

「っ、櫻井。この間頼んだ書類出来ているか?」

彩奈さんが話しかけるのを遮るかのように、課長が私に話しかけた。

「え、書類ですか…」

そんなの頼まれてたっけ…
思い出そうと、課長の顔を見ると、明らかにいつもといつもと違う顔色になっていた。

「急ぎではないが、と前に頼んであったよな?今日の午後から必要だから至急揃えてくれ」

それが、課長の嘘だという事が私にも分かった。
そうだ、この場から私を離したいんだ、と。
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