月歌~GEKKA
第四章 すれ違う想い
セール期間前日。
売り場内には緊迫感が漂う。
売れ筋商品が入荷した場合、他のお客様の目に留まらないように即、商品名を隠して倉庫へと運び検品作業をする。
閉店後に目玉商品を陳列する棚を作り、売れ筋商品は陳列する棚を広げて商品を並べる。
POPを普段のPOPからセールPOPに貼り替え、セール対象外の商品の補充も行う。
それぞれが慣れた感じでテキパキと作業を行い、売り場が華やかな感じに変わる。
「柊、ツリーの飾り付けしとけ」
階段を上がってすぐにある、普段は催事をやっている売り場が12月まではクリスマスツリーやクリスマス関連を飾る売り場に変わる。
杉野チーフが黙々と見本のツリーを飾っているので、私は自分の仕事を終えて杉野チーフの隣に並ぶ。
「じゃあ、その小さい奴を飾ってくれる?」
指さされた小さな箱を開けて、ファイバーツリーを出して陳列して行く。
しばらくして森野さんもやって来て
「じゃあ、俺はこっちやりますね」
と言うと、180㎝のツリーを開けて飾り始めた。
テキパキと飾られるツリーだが、片側しか飾らない。
「あれ?なんで片側だけなんですか?」
何も考えずに思わず口にすると
「阿呆!お客様が見るのは片側だけだろうが。
装飾を全面に飾るより、片面だけに装飾した方が豪華に見えるだろう!」
手を止めず、森野さんがテキパキとツリーを綺麗に飾り付けながら答える。
思わず『上手いもんだな~』って関心して見ていると
「何ぼんやりしてる!さっさと他のを飾れ!」
と怒鳴られてしまった。
私は細かく仕切られた売台に小さなファイバーツリーや、すでに飾り付けられているツリーを並べて行く。
「杉野チーフ。そっちは俺やるんで、こっちの飾り付けをお願いします」
大きなツリーを売台に乗せようとしていた杉野チーフに、すかさず森野さんが手を出して飾り付けられたツリーを杉野チーフから受取り売台に飾っている。
色とりどりのツリーが綺麗なのに、私の心はどんよりしていた。
どんなに杉野チーフから「他に好きな人が居る」と聞いてはいても…それは杉野チーフの気持ちであって、森野さんの気持ちは分からない。
自分の醜い感情を振り払おうと立ち上がった瞬間
「危ない!」
と叫ぶ杉野チーフの声。
驚いて固まっていると、森野さんの身体が私の前に立ちはだかった。
「え?」
その瞬間、ガシャンという音と共に売台が倒れ込んで来た。
どうやら私がまだ固定していない壁掛け型の売台を踏んでしまったらしく、売台が倒れ込んで来たのだ。
間一髪で森野さんが売台を支えてくれて、私も森野さんもケガをしなかった。
杉野チーフとお手伝いに来ていた先輩が売台を戻して固定した瞬間
「馬鹿野郎!お前何やってるんだよ!やる気あるのか!」
そう怒鳴られた。
「最近のお前、ぼんやりしてばかりでやる気が感じられないんだよ!
やる気がないなら、他の売り場へ異動しろ!」
吐き捨てるように言われてショックだった。
「すみませんでした」
頭を下げた私に
「森野君、怒りすぎだよ。柊さんも今後は気を付けてね」
必死にフォローする杉野チーフに
「大体、杉野チーフが甘やかすからこいつがつけあがるんです!
あなた、チーフの自覚あるんですか?」
森野さんの怒りの矛先が変わる。
「私だって、考えてやってます!大体、森野君は怒鳴ってばかりじゃない!
そんなんじゃ、柊さんが委縮しちゃうでしょう!」
「萎縮?こいつが委縮するタマですか?」
「何でそういう言い方するの?大体、森野君は冷たいのよ!」
私の事で二人が言い争うのが耐えられなかった。
「もう、止めて下さい!全部、私が悪いんです。だから、二人が言い争わないで下さい」
二人に叫んだ瞬間、杉野チーフと森野さんが口を噤んだ。
「はいはい~。三人ともそこまで~」
険悪な空気が流れた瞬間、店長ののんびりした声が響く。
「もう、三人とも今日は帰りなさい。疲れてるから、喧嘩するんやで」
やんわりとした口調だったけど、それは有無を言わせない威圧感を漂わせていた。
「わかりました」
最初に口を開いたのは杉野チーフだった。
店長はにっこり微笑んで
「杉ちゃん、柊ちゃんも連れて帰ってな~」
と言うと
「ほら、森野君も帰りや~。」
そう言って、森野さんの肩を軽くぽんぽんっと叩いた。
「でも、明日売り出しなのに…」
と言い掛けた森野さんに
「俺の言ってる事、分からへんの?」
店長の笑顔がすっと消えた。
その顔は、入社してから初めて見る怒った顔だった。
森野さんはしばらく黙り込んでから
「わかりました…」
とだけ言い残し、私達に背を向けて歩き出す。
森野さんが階段を下りる音が遠くなった頃
「ほら、二人も帰りや~」
そう言って店長が微笑む。
私はバツが悪い気持ちのまま、杉野チーフと一緒に店長に背を向けて階段に向かって歩き出した。
丁度、階段に辿り着いた時
「柊ちゃん、森野君の事を嫌わんといてな」
と、店長がぽつりと呟いたのだ。
驚いて振り向くと、店長はいつもの笑顔で微笑んでいる。
この言葉の意味を、この時の私は知らなかった。
ただ、職場の雰囲気を案じての言葉だと思っていたのだ。
でも…この後私は店長の言葉に隠された本当の意味を知る事となる。
売り場内には緊迫感が漂う。
売れ筋商品が入荷した場合、他のお客様の目に留まらないように即、商品名を隠して倉庫へと運び検品作業をする。
閉店後に目玉商品を陳列する棚を作り、売れ筋商品は陳列する棚を広げて商品を並べる。
POPを普段のPOPからセールPOPに貼り替え、セール対象外の商品の補充も行う。
それぞれが慣れた感じでテキパキと作業を行い、売り場が華やかな感じに変わる。
「柊、ツリーの飾り付けしとけ」
階段を上がってすぐにある、普段は催事をやっている売り場が12月まではクリスマスツリーやクリスマス関連を飾る売り場に変わる。
杉野チーフが黙々と見本のツリーを飾っているので、私は自分の仕事を終えて杉野チーフの隣に並ぶ。
「じゃあ、その小さい奴を飾ってくれる?」
指さされた小さな箱を開けて、ファイバーツリーを出して陳列して行く。
しばらくして森野さんもやって来て
「じゃあ、俺はこっちやりますね」
と言うと、180㎝のツリーを開けて飾り始めた。
テキパキと飾られるツリーだが、片側しか飾らない。
「あれ?なんで片側だけなんですか?」
何も考えずに思わず口にすると
「阿呆!お客様が見るのは片側だけだろうが。
装飾を全面に飾るより、片面だけに装飾した方が豪華に見えるだろう!」
手を止めず、森野さんがテキパキとツリーを綺麗に飾り付けながら答える。
思わず『上手いもんだな~』って関心して見ていると
「何ぼんやりしてる!さっさと他のを飾れ!」
と怒鳴られてしまった。
私は細かく仕切られた売台に小さなファイバーツリーや、すでに飾り付けられているツリーを並べて行く。
「杉野チーフ。そっちは俺やるんで、こっちの飾り付けをお願いします」
大きなツリーを売台に乗せようとしていた杉野チーフに、すかさず森野さんが手を出して飾り付けられたツリーを杉野チーフから受取り売台に飾っている。
色とりどりのツリーが綺麗なのに、私の心はどんよりしていた。
どんなに杉野チーフから「他に好きな人が居る」と聞いてはいても…それは杉野チーフの気持ちであって、森野さんの気持ちは分からない。
自分の醜い感情を振り払おうと立ち上がった瞬間
「危ない!」
と叫ぶ杉野チーフの声。
驚いて固まっていると、森野さんの身体が私の前に立ちはだかった。
「え?」
その瞬間、ガシャンという音と共に売台が倒れ込んで来た。
どうやら私がまだ固定していない壁掛け型の売台を踏んでしまったらしく、売台が倒れ込んで来たのだ。
間一髪で森野さんが売台を支えてくれて、私も森野さんもケガをしなかった。
杉野チーフとお手伝いに来ていた先輩が売台を戻して固定した瞬間
「馬鹿野郎!お前何やってるんだよ!やる気あるのか!」
そう怒鳴られた。
「最近のお前、ぼんやりしてばかりでやる気が感じられないんだよ!
やる気がないなら、他の売り場へ異動しろ!」
吐き捨てるように言われてショックだった。
「すみませんでした」
頭を下げた私に
「森野君、怒りすぎだよ。柊さんも今後は気を付けてね」
必死にフォローする杉野チーフに
「大体、杉野チーフが甘やかすからこいつがつけあがるんです!
あなた、チーフの自覚あるんですか?」
森野さんの怒りの矛先が変わる。
「私だって、考えてやってます!大体、森野君は怒鳴ってばかりじゃない!
そんなんじゃ、柊さんが委縮しちゃうでしょう!」
「萎縮?こいつが委縮するタマですか?」
「何でそういう言い方するの?大体、森野君は冷たいのよ!」
私の事で二人が言い争うのが耐えられなかった。
「もう、止めて下さい!全部、私が悪いんです。だから、二人が言い争わないで下さい」
二人に叫んだ瞬間、杉野チーフと森野さんが口を噤んだ。
「はいはい~。三人ともそこまで~」
険悪な空気が流れた瞬間、店長ののんびりした声が響く。
「もう、三人とも今日は帰りなさい。疲れてるから、喧嘩するんやで」
やんわりとした口調だったけど、それは有無を言わせない威圧感を漂わせていた。
「わかりました」
最初に口を開いたのは杉野チーフだった。
店長はにっこり微笑んで
「杉ちゃん、柊ちゃんも連れて帰ってな~」
と言うと
「ほら、森野君も帰りや~。」
そう言って、森野さんの肩を軽くぽんぽんっと叩いた。
「でも、明日売り出しなのに…」
と言い掛けた森野さんに
「俺の言ってる事、分からへんの?」
店長の笑顔がすっと消えた。
その顔は、入社してから初めて見る怒った顔だった。
森野さんはしばらく黙り込んでから
「わかりました…」
とだけ言い残し、私達に背を向けて歩き出す。
森野さんが階段を下りる音が遠くなった頃
「ほら、二人も帰りや~」
そう言って店長が微笑む。
私はバツが悪い気持ちのまま、杉野チーフと一緒に店長に背を向けて階段に向かって歩き出した。
丁度、階段に辿り着いた時
「柊ちゃん、森野君の事を嫌わんといてな」
と、店長がぽつりと呟いたのだ。
驚いて振り向くと、店長はいつもの笑顔で微笑んでいる。
この言葉の意味を、この時の私は知らなかった。
ただ、職場の雰囲気を案じての言葉だと思っていたのだ。
でも…この後私は店長の言葉に隠された本当の意味を知る事となる。