扉に光るランプ〜落とした想いの物語〜
「えっちょっと」



私はそのまま後ろを振り向き逃げようとした。



だけど、それを彼は素早く振り止めた。



と、持っていた本が地面にポスっと落ちてしまった。



それさえも気に止めず、彼は私の手を握りながら問い詰める。



「なんで逃げるの?」



「それはその……」



言えない。



この人もまた同じなんじゃないかって思ってしまったなんて。



彼はきっと違うと思うけど、けどそれでもやっぱり怖いのかもしれない。



「男の子は裏表が激しいから、苦手…」



別に自分の思っている感情を彼に押し付けたい訳ではない。



でも、いつの間にか口にしていた。



「………」



私の恐怖の感情に応えるかのように、彼は地面に落ちた本を拾い、パッパッと軽く払い私に差し出す。



「あ、えっと」



私、失礼な事をしてしまったのかもしれない。



こんなあからさまな態度 嫌がられる。



「ごめんなさい…そのえっと」



ふわっとまたあの優しい甘い香りが漂い、同時に手が伸びて頬と髪の間に手のひらが触れる。



「君は柔らかくて小さくてかわいいね」



「……へっ!?」



いや、確かに私はそんなに背も高い方でもないし、かと言ってかわいい訳でも。



「俺は大丈夫だよ、酷い事しないよ」



「……えっ」



「大丈夫だから」



まるで、安心をもたらしてくれるかのようなそんな声音だった。



(大丈夫…ああ、そうだよね)



全員が悪人な訳じゃない。



こんなの彼に失礼だ。



私はただずっと嫌がらせをされていたから、近付いてくる男性が全てがそう思うようになってしまっていたんだ。



触れた彼の手はとても暖かった。


男の人ってこんなにも優しくて暖かいんだ。



「あ、そろそろ朝礼が始まるね」



(あ、本当だ、戻らないと)



「あ、あの」



すっとまた彼の白い手が伸びて頬に触れる。



「……」



「また会いに来て。
会いに来たら、次は良い所に連れて行ってあげる」



「良い所?」



「またね、アリスちゃん」



そう言って彼は手を離し校舎へと戻っていった。



(アリス…?)



なんでアリスなんだろう?



よく分からなかったけど、とりあえず教室へと向う事にした。



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