過ぎる景色を共に

始まり

ある日
彼氏とご飯を食べた後
会社に忘れ物をして取りに帰った


真っ暗な建物からは
時に不安と孤独が迫ってくる
この世界から人が全て消えたと思わせるような
静まり返った空間

それに対して
悪いことをしているかのような
少しの高揚感

学生に戻ったかのような
不思議な感覚


そんなことを思いながら部屋の扉を開けた

誰もいないと思っていた部屋に
1つの灯りがともっていた


さっきまで作業をしていたであろうあなたは
よりによって僕の席で寝ている

座ったままうつむいて寝ているあなたに
起こさないよう慎重に近づく

忘れ物を取ろうとしたが
引き出しの前に足があって開けれない
どうしようか悩んだ結果
申し訳ないが起こすことにした

名前を呼んでみたがなかなか起きない
よっぽど疲れているのか
肩を軽く叩いても起きる様子はない

どうしたものか

しばらくの間
僕は隣の席に座って様子を見ていた

すると突然名前を呼ばれた
起きたのかと思ったが
まだ寝ている
働いている夢でも見ているのか

もう一度名前を呼んでみた

寝ぼけた感じで
あなたは顔を上げた

いつもと違う
柔らかい笑顔で
僕に微笑んだ

こんな顔するんだと
僕は見つめたまま言葉が出なかった

向こうも状況を把握するのに
時間がかかったのか
僕を見て固まっている

お互い我に返り
顔をそらした

するとまた名前を呼ばれた
そしてあなたはこう言った

"キスしてもいい?"
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