Contract marriage ―契約結婚
冷たい…と、思われていた口付けも、温もりを感じるようになり、その口付けに、少しずつ…抵抗する力も失せていく…

身体の力が、少しずつ…奪われていくような…感覚がした…

「…っん…!」
《やだ、何これ…

イヤなのに、抵抗出来ない…っ》



「紘一さま…」

ことの様を、制止するかもような…緊迫感を帯びた声…

その声に、紘一は…

「邪魔するなよ。お前にその権限はない」

紘一は、その声の主が誰なのか分かっているのか…

振り返りもせず…、威厳のある声で、そう言った…


「旦那さまから、火急の要件があると、お電話が…」

その言葉に、軽く舌打ちをうち…、悠夏から身体を離した紘一は、部屋を出ていく時…

「この女が出ていかないように、見張ってろよ。吉澤…」

紘一は、そう言いながら…吉澤の横を通り過ぎる…

胸元の衣類を整えている悠夏…

何とか…、襲われそうになるのを免れた…と、思った瞬間に、安堵と共に自然と…、涙が溢れだしてくる…

「……っ」
《助かった…と、言って…、いいのかどうなのか?

どのみち、夫婦になるのであれば…

身体の関係も、近いうちに…っ》

と、涙が込み上げてきた…

「吉澤さん…、私はあの人と結婚しなくてはダメなのですか?」

その悠夏の問いかけに、悠夏に近づいてきた吉澤は…

そ…っと、悠夏の頭を撫で…

その行動に、悠夏は、ぱっと吉澤を見上げる…

「強くなってください。あなたがこの家で生きていくには、自分のことは自分で守っていくしかない…」


深く…、吸い込まれそうな瞳…

その声、その言葉に…胸の鼓動が急速に高鳴った…


「………」
《私は、あの人を愛することが出来るのだろうか?


あんな…、人を人とは見ないような…冷たい人を…



どうして…、この人はそんなことを私に言うのだろう…?》


不安ばかりが駆け巡る…




それでも……

胸の鼓動は、自分でも分かりすぎるくらいに…速さを増していっているのが分かる…

先程の…、冷たい口付けを思い返すと、鼓動の速さに収集がつかないくらいに…

「……っ」
《キス…って…

息苦しいけど…、もっと…って、求めてしまいそうになるのね…っ

アレが、大人のキス…?

胸が…、ドキドキして…どうしよう…

あんなに、私のことを嫌っている…と、思える人が、あんな口付けをするなんてっ

あぁいうものなの?》


自分の気持ちが追いついていかないことに、まだ気づいていなかった。。
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