Contract marriage ―契約結婚

「吉澤さん、大丈夫ですか？」

紘一が出て行ったあと…、吉澤の顔を覗き込むようにした悠夏…

「ごめんなさい。私のせいで…」

頬に、微かに血が滲んでいた…

「すぐに、冷やした方が…」

涙が吹き出しそうな悠夏から、顔を逸らした吉澤…

「大丈夫です。」


「あーあ、よっぽど悠夏ちゃんのことが大事なのね？」

と、ため息混じりに言った雅…

その言葉に、雅の方を見つめた悠夏…

「だって。心配で出張から駆けつけてきたんでしょ？ 言葉にしなくても…分かるゎ」

「……っ」
《そうなの？ ホントに心配して…？》


「紘一さん、私と初めて会った時から…子どもだったのに、あんな感じだった。誰も寄せ付けない…信じないって、感じ。
でも、あんな表情…初めて見たゎ…」

「…でも、殴るなんて…」
《ホントに、心配してくれているの…？

分からないことばかり…っ》

雅は、そのあと、すぐに仕事がある…と、帰って行った…


雅は、あぁ言っていたが…
悠夏は、紘一が心底自分のことを心配し、吉澤を殴った…とは、思えなかった…

「……っ」
《何か…、あの2人には、人には知られないような秘密でもあるの？

紘一さん、
私のことを心配してくれたのかもしれないけど…

吉澤さんを殴るようなことをしないで欲しい…

どうしたら、もっと…打ち解けられるようになるんだろう…？》

と、思わず…深いため息をついた…


不安で、胸が押しつぶされそうになっていた…