Contract marriage ―契約結婚
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その日の朝は、珍しく…紘一と朝食をともにした…

悠夏が、この椎堂家に来てから…、初めて…自分以外の人間と食べる食事だった

…が、2人とも…無言のまま…だった…


悠夏は、昨夜のことがフラッシュバックし、紘一の顔もマトモに見れず…、スプーンやフォークを持つ手が震え…食事を食べることすらままならなかった…

何の味もしない…砂を噛んでいるような感覚とは、こういうことか?


紘一はと言うと…、いつもの事なのか? 新聞を見ながら食事をするのが日課らしく…早々に食べ終わっていた

席を立つと、吉澤が差し出したスーツの上着を着、ダイニングルームを出て行こうとした…

その時、ようやく…悠夏と視線がぶつかった…

悠夏も、慌てて…部屋を出、玄関までついて行った…

「行ってらっしゃい…」

どうやったら…、昨夜のような酷い目に遭わず…紘一の機嫌を損ねないでいられるか…?

それは、紘一の理想とする妻を演じること。。


やっと…、勇気を振り絞って…それだけ言えた…

その悠夏に、振り返った紘一は、悠夏の顎先に触れ…頬にキスをし、

「行ってくる。今日は早く帰るから…」

その行動に、心臓が止まるような衝撃を受けた…

嫌悪感で、背筋が凍り付くのを感じた…

「はい。気をつけて…」

メイドたちの手前、平静を装うのがやっとだ…


上手く…、やれているのだろうか?

そんな自信、何も無い…


ただ、自分の精神を保つためには、《偽りの妻》を演じる他…なかった…
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