Contract marriage ―契約結婚
開いていた控え室のドアを軽くノックし、中を覗き込むように…

「悠夏、支度は?」

その、聞きなれた声に、そのドアの方を振り返る…

「…紘一さん、いま、お父さまがいて」

紘一も、控え室に入り、父親の翔吾や森や妹たちと挨拶を交わし…、悠夏に

「綺麗だ、とても…」

それは、ドレスの試着をしに雅のサロンに行った時、吉澤が言っていた言い方に、似ていた…

悠夏は、紘一に笑顔を向ける…

紘一も、今日は機嫌が良いようだ…

その、微かな笑みに、安心した…

「ありがとう。」

そぅ、笑顔を見せた…


形だけの夫婦…

それでも、いつかは、愛情が芽生えて来る日が来るのだろうか…っ?


悠夏は、自分の想いが吉澤に有りながら…紘一との夫婦関係を築いていくことに、疑問ばかり…だったが…

この男と婚姻関係を結ぶ以上、自分の心は別の所にないと…ムリに等しいことを理解していた…




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真紅の絨毯が引かれたヴァージンロードを父の翔吾と歩く…

大きな十字架が掲げられた祭壇の前に、神父の男性と紘一が待っていた…

紘一の手を取り、隣りの位置へ…


神父の男性の言葉に、答え…指輪の交換を交わし…

ウェディングベールを引き上げられた…

その、紘一の肩先の向こうに…紘一の父親の佑一朗と、先日会った義母の雅…と、その隣りに吉澤の姿があった…


「……っ」
《吉澤さん…? どうして、親族の席に…っ?》



悠夏の少しの変化に気がついた紘一は…小声で

「どうした?」

その声に、我に返る悠夏…

「…あ、なんでも…っ」
《どうして…っ?》


疑問符ばかりが浮かぶ…

が、紘一に悟られないように平静を装った…








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