Contract marriage ―契約結婚

第三章 約 束

悠夏が、紘一と結婚し、ふた月が過ぎた…

季節は、年が明け…1月も過ぎた半ば頃へと…いつの間にか、移り変わっていた…


悠夏と、紘一や吉澤…の関係も変わらない…。

吉澤とは、あれ以来、気持ちを通わせることや、穏やかに同じ時間を過ごすことはあっても…口付けを交わす以上のことは、していない…

紘一は、彼の仕事の忙しさもあってか…2人で過ごせるのは、週末くらいしかなかった…。
仕事が忙しい…ということもあってか…、帰って来ないという日もあった。
悠夏は、少しは気を遣うことはあったとしても…それを回避出来るくらいの術を身につけつつあった…


紘一は、自分の好みの女になっていく悠夏を、休みの日は、一日中、ベットから出さない日もあるほど…その身体に溺れた…

「や、紘一さん、もぅ日が高いです…明るいの、いや…っ！」

そぅ…、すっかり日が高くなった週末…、2人は、いつまでもベットから抜け出さない…

子どものように、戯れながら…蜜のような時間を過ごす…

「いい身体になったな…、」

悠夏を抱いている時は、紘一の機嫌が良いのは事実…愛おしそうに、悠夏を見つめる…

悠夏も、紘一の機嫌は、損ねたくはない…だけではなく、その瞳に胸が高鳴って収集がつかないくらいだった…

自然…と、彼の望むまま…になっていくのも仕方がなかった…

「…あ…ん…っ！ また…」


悠夏と、結婚してから…屋敷内でも紘一は、使用人やメイドたちにも怒らない…

確実に、人として変わったのは、誰が見ても明白だった…




が、紘一のいない平日の昼間は。。
暇を持て余していた悠夏は、雅に誘われ…料理教室に行くか、英語の家庭教師に来てもらうか、バッチワークやレース編みの教室に行くか…だった。

外出も制限無く…許されたが、目的もなく外出や買い物をするような気分ではなかった…(毎日、暇だったし、さ程物欲もないから)

紘一に、大学へ行きたい…とは、到底許してもらえるとは思えず…、それは言わないままだった…

ここ数日…、気だるさからか…何かをする…という気持ちにもなれなくなっていた…とも、言える


時折り、出入りをする…椎堂家の書庫に行くのが…最近の日課になっていた…

天井まで届く本棚が壁一面に敷き詰められていた…読書好きな紘一が、海外の本や翻訳された本、経済関係の本や文芸書に至るまで…所狭しと整頓されてあった…

悠夏は、1冊の本を本棚から出し…、パラパラと捲る…

「懐かしい…っ」

思わず、笑顔になった…

題名に、《100万回 生きたねこ》と、描かれていた…

人を信じることも、愛することも知らないネコは、何回も生まれ変わり…
大切な人に出会って、初めて人を好きになり、大切な人がいることを知る…という内容。

自分が小さな頃に、よく読んでいた絵本を紘一も読んでいたのかと…思うと。。親近感が沸いた…


結婚し、気づいたことだが…
2人とも、読書や映画を見に行くのが好きだった…

時々は、映画などを見に行く時間を作ってくれるようになった…というのは、紘一の悠夏に対する変化…なのだと言える。。


その、絵本の後ろ表紙に、文章が書かれてあった…

《紘一くんへ お誕生日おめでとう》

という一文と誕生日の日付…20××年 7月24日

「この文字、どこかで…？」

首を傾げた悠夏…