Contract marriage ―契約結婚

「吉澤さん、紘一さん…から、別れてもいい…と、言われました」

先ほど、紘一から言われた言葉を吉澤に伝えようとした…

吉澤は、微かにその瞳が動揺しているのが伺えた…


「私と、別れたければ別れてもいい…と。
でも……」
《紘一さんと別れて…、吉澤さんと一緒になって…

それで良いのか…っ？


私は、こんな気持ちのままでは、紘一さんとも別れられない…

それは、父の会社があるから…とか、そういうことではなく…

あの人の、本当は寂しい人だと…知ってしまったから…

自分のこの気持ちも、何なのか…分からないのに…》


「悠夏さま、私は、もし…そうなったとしたら…紘一さまにはちゃんと伝え、赦して貰います」

「…えっ…？」

両目を見開き、吉澤を見つめる悠夏…

悠夏に、頷き返した吉澤は、悠夏の手を取り…握り締め…

「必ず…、赦して頂きますから…」

吉澤の言葉に、安心したかのように…笑みを浮かべた悠夏…


でも。。
…と、悠夏の心に猜疑心が拭いきれない


紘一は、ああ言ったが…、本当に自分と離婚した悠夏と吉澤の関係を許すのだろうか？


「…やっぱり、父の会社の為に結婚をしたはずなのに…、
紘一さんから、あんな言葉を聞くなんて…」

その、悠夏の言葉に…吉澤は…寂しそうに微笑んだ…

「…悠夏さま…」

悠夏の頬に、優しく触れる…その手…

「それは……っ」

吉澤が何か言いかけた時…、寝室のドアが開き…

吉澤は、瞬時に悠夏から身体を離した…

「紘一さん…」

椎堂家専属の医師の診察を受けた悠夏の状態を聴いた紘一…

「悠夏、気がついたのか…」

と、ホッと、安心したように息を吐いた紘一…

その表情は、悠夏と接する時の…優しげな表情になっている…

先ほどの、怒っているような感じは見られない…

「紘一さん、ごめんなさい。ちょっと、立ちくらみが…」

と、言いかけた時…紘一は、悠夏が横たわっていたベッドまで近づき…、その手を取った…

ベッドに腰おろし、目線を合わせる…

「悠夏、落ち着いて…聴け…
明日、病院に行こう。俺も一緒に行くから…」

紘一の言葉の意味が理解出来なかった悠夏だったが…、次第に少しずつ理解してきた…

「病院…っ？ 私、何か…？」
《病院に行って、詳しく診察を受けなければならないの…？》


と、思った時に…