Contract marriage ―契約結婚

が、紘一にとっては、自分の母親を匡に取られたかのような…そんな気持ちにしかならなかった。

匡ばかり…を特別視する母親や父親に…

「…匡。おいで…」

と、母の目を盗み…少しずつ洗脳していった…本人に、その意識はなかったにしても…


そして…、植え付けて行った…

弟は、自分とは兄弟ではない…、この家の本当の子ではないということを…



そして…、紘一が12歳になった年の誕生日…

紘一は、この日の自分の誕生日を生涯忘れることはない……


夏休み…と、言うこともあり…
紘一は、自室で中学受験の勉強を家庭教師としていた…

が、階下や廊下からは、匡やその友達…、匡と母親の沙也加との声が耳障りなくらい…聞こえてきていた。

いゃ、それほ、本人の気にし過ぎ…だったのかもしれないが…

「…紘一くん、休憩しようか？」

と、普段はしないだろうミスを続けてした紘一に、家庭教師の男性ほ、休憩を促した…

「はい。少し…外に行ってきます…」

と、腰を上げた紘一…

イラついていた…とも言える…

友人たちは、中学受験などする子どもは数える程しかいない…父親の意向と言っても、納得して受験することにしたが…

自分を何よりも、イラつかせているのは…


キッチンから聞こえてきていた…匡と母の沙也加の声…、2人で何かを作っているようだった…

その中を覗き見た紘一…、羨ましかった…

自分も、母親に愛され…一緒に何かしたかった…

その紘一に気がついた匡は、満面の笑顔を浮かべ…出来たばかりのケーキを両手に持ち、駆け寄って来た匡…

匡は、学校でも、とても利発でリーダシッフも取れる…クラスのまとめ役…、困っている人にも手助けをし、周りから慕われる…とのことだった…

塾での成績も、1番らしく…
勉強でも、スポーツでも何でもこなす…文字通り。。両親から期待されていた…


「お兄ちゃんっ！ お母さんと作ったんだ。夕ご飯の後で、食べよ…」

と、デコレーションしたばかりのケーキを紘一に見せた…

「……っ」

カンに触るような声…

匡は、紘一の顔を覗き込み…

「誕生日だよ、お兄ちゃん。忘れちゃった？」

こめかみを抑えた紘一…、

頭の奥で、ズキズキと傷みが走った…


「うるさいっ！っるさいっ！
俺は、お前の兄なんかじゃないっ！ 消えろっ！ いなくなれっ！」