Contract marriage ―契約結婚
ガックリ…と、肩を落とし…、自然に溢れ出た涙を止められない紘一…

「…お母さん…っ」
《何かあったら…

俺のせいだっ!

どうしよう…、お母さんに何かあったら…っ!》

と、両手で頭を抱え…、堪えきれず…泣いていた…


そんな紘一に、近づく小さな手…

紘一の膝元に手を置いた…紘一の顔を頑張って覗き込もうとしている…

その小さな顔…、可愛いらしい女の子だった…

その、女の子と視線がぶつかった…その女の子は、紘一が自分に気がついたと分かると、ニコッと笑顔を見せた…

「泣いてゆ。ママ! この人、泣いてゆ…。
お兄ちゃん、痛いの?」

その小さな女の子の声に、紘一は我に返った…。慌てて、涙を見せまいと目頭を拭った…

目の前には、小さな女の子…、髪の毛をツインテールにしている…、大きな目で紘一の顔を覗き込み、見つめる…。

そのまっすぐに自分を見つめる瞳から逃れられない…と、感じた…

左手に巻かれた包帯をし、ほっぺには絆創膏が貼られていた…

その小さな女の子の母親らしき女性が女の子の側まで近づいてきた…

「は〜るちゃん、ダメよ、知らない人に話しかけちゃ…!」

と、息を切らしながら追いかけてきた20代くらいの女性…

「ママ! 絆創膏! このお兄ちゃん、痛いとこあるみたい!
どこ痛い? はるが治すっ!」

と、饒舌に喋る女の子に、呆気に取られていた…

「悠夏、絆創膏で治らない傷もあるのよ?
あなたが補助付自転車からすペリ落ちたのとは違うの…っ」

と、吹き出しながら言った女性…は、紘一の様子を察した…
擦り傷だらけの身体を治療して貰い、その瞳は涙で腫れている…

ただならぬ雰囲気…というのを悟ったようだった…

隣りのベンチに、悠夏という少女を抱き抱え、腰を下ろした…

「何か、あった? 話したくないのならいいけど。
話せば…ラクになることもあるよ?」

そぅ、紘一の顔を覗き込み微笑んだ女性…

「お母さんが…、僕を庇って…車に轢かれて事故に…
弟に、酷いことを…言ってしまって。それで…」

言っている内に、涙が吹きこぼれてきていた…

人前で、泣くことはなかった紘一は、この女性の前では何故か素直になれた…

彼女は、黙って聞いていた…

「お母さんが死んだら…、僕のせいだ…っ!」

声を荒らげた紘一に、悠夏という小さな女の子は、紘一の頭に精一杯手を伸ばし、その頭を撫でる…
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