Contract marriage ―契約結婚

その小さな…暖かい手に気がついた紘一…、何故か、少しずつ癒されていくような気がし、涙も止まった…

「あら、はるちゃん。このお兄ちゃんのこと、気に入った？」

と、笑いながら言った女性…

「うん！ お兄ちゃん、泣かないで…はるがそばに居るょ」

無邪気な女の子の言葉に、紘一は言葉にを失っていた…

「……っ」

その少女の真剣な言葉が、凍りついていた心を溶かしていくようだった…

何故か…、その少女の笑顔をいつまでも見ていたい…と、思えてならなかった…

「はるもね！ 痛い時、あるけど。ママが治してくれたら治るの！
お兄ちゃんの痛いの、はるが治すから…。ねっ！」

饒舌に喋る少女に、次第に笑顔になっていっているのに…自分でも気づかなかった…

それを目にした…その少女の母親は…

「そう！ 分かった！ 少年、この子を嫁に貰いなさい！」

そう、笑いながら言った女性…

その、女性の言葉に、度肝を抜かれた…

「はぁ？ 俺、ロリコンじゃないし！」

「何言ってるの？ この子だって、あと14.5年経てば…立派なレディになってるゎ！ 私の娘だもん！」

「お嫁さんになってあげるよ。お兄ちゃん！」

その2人の迫力に負けていた…


「少年、お名前は？
さっきのお話だと今日が、誕生日だって言ってたけど…」

「はるの、お気に入りの本、あげゆっ！」

と、悠夏という少女が差し出した絵本…

「本って、絵本じゃないですか？」

「あら、このお話はね。孤独なネコちゃんがホントに大切なネコちゃんを見つける話なの！」

《100万回 生きたネコ》…と、書かれた…その絵本

その女性は、その絵本の裏表紙に、紘一の名前を書き、《誕生日 おめでとう》と、書き記した。

そのカバーで隠れた中に、その女の子の名前らしきモノが書かれてあった…


紘一は、パラパラ…と、その絵本を捲っていた…

紘一は、その少女をあやすつもりなのか…絵本を朗読しはじめた…


その時、小さな少女は、紘一の身体にしがみつき、紘一の頬にキスをした…

「まぁ、はるちゃん！ 積極的！」

と、喜ぶ女性…

紘一は、不意打ちのキスに度肝を抜かれた…

「ちょっと！ 母親なら、ちゃんと管理しとけよ？ 人の…っ！ 頬だけど。」

笑い転げる女性…が、急に真顔になり…


「紘一くん、お母さんはね、たとえあなたを庇って生命を失ったとしても…後悔はしないと思うわよ？ 生命より、大事なあなたを助けたんだもの。後悔はしない。母親って、そういうものよ？」

「……っ。でも…」

「じゃぁ、どうして…あなたを助けたと思う？ 自分のことが大事な人だったら、車に轢かれそうになっていたあなたを身を呈して守ろうとはしない。
生命がけで産んだ我が子を、守るためなら…生命だって惜しくはないの」

「…おばさん…っ」

紘一は、その女性の言葉に、またも…涙がこみ上げそうだった…

「おねえさんねっ！ 私、まだ27歳！」

その女性の言葉ほ、何故か素直に聞き入ることが出来ていた…