Contract marriage ―契約結婚
「行ってきます。紘一さん」

と、その年の5月…13歳になった匡…は、自室のソファに座り、本を読んでいる紘一に笑顔を向けた…

この日、イギリスへと旅立つ日…だった…

母の沙也加の死後、2人の距離は縮まらないまま…、匡は、紘一と一線を引き、兄とは呼ばなくなっていた…

部屋のドアの前で、挨拶をする匡…

「あぁ。」

微笑み、一礼をし…出ていく匡…

それを見送るしかない…。。

本当なら…、見送るべきではなかった…、《側にいろよ。イギリスなんて行く必要はない》…と、何故、言えないのか?

《身体に気をつけて》…という言葉すら出てこない…

素直ではない…、そんなことは分かっている…

自室の2階の窓から、車に乗る匡の姿が見えた…

「…頑張れ…、匡…」

そぅ、小声で呟いていた…

「……っ」
《母さん、ごめん。

母さんとの約束は、守れない…

匡は、遠くに行ってしまう…。自分のせいで…

優しい言葉も、掛けられない…俺は、ダメな人間だ…》


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「それでは…、私と紘一さんはずっと昔に会っていた…ということなの?」

話を終えた紘一に、悠夏は驚いたように声を上げた…

頷き返した紘一…

「じゃ、私のお母さまとの約束のために?」

「いゃ、それは、半分忘れていた。
たまたま買収した会社に娘がいる…と、調べさせた。それがお前だった…」

「…忘れていたんですね?」

運命的な再会か…と、少しときめいた悠夏だったが、真実は違っていたことに一瞬にして、気落ちした。

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