Contract marriage ―契約結婚
一瞬にして…、動悸があがったような気がした…

紘一が自分を見つめてくれるだけで…緊張からか動悸があがる…

それは、吉澤との関係をいつ、悟られるか分からない…ということもあったのかもしれないが…


「本当は、長期の休みでも取って…、悠夏の行きたい所に…だけど。」

「いぇっ! 嬉しいです。
私、沖縄、行ったことがなくて…」

そぅ、笑顔で答えることが精一杯だった…


「なるべく早く…呼べるようにする」

紘一は、そぅ言い…席を立った…


これから、寂しい夜を過ごす…のだと思っていた悠夏は、一瞬にして舞い上がりそう…だった。


…とは、裏腹…に、別のところに気持ちがあるということを気づかせるわけにはいかない…と、自分の心を何とかセーブしていた…


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「紘一さまと…、嬉しそうですね」

と、早速、沖縄旅行の支度をしようとした悠夏…

自室で、トランクを出し…、何を着ていくか…服を鏡の前で自分に見立てながら…いた所、その声が聞こえた…

その声に、心臓を鷲掴みにされたかのような衝撃を受けた…

「…吉澤さん…」

「何故、兄に旅行に誘われ…そんなに喜ぶのか?
…私の気持ち、知ってますよね?」

「……」

その嫉妬…とも取れる言葉に、悠夏の表情からそれまでの笑顔が消えた…

「…それでは、私にどうしろと?
紘一さんからの誘いを断ればいいの?」

「…そうは言ってません」

「そう…、言っているようにしか…聞こえません。
私にどうしろ…と、言うの? 私は、あの人を裏切っている…。
それは、そうだけど…ここまで思ってくれる人を裏切ることは…」

吉澤は、深いため息をつき…

「べつに、私は、このままでいられれば良いのですけど。
あなたが、自分のことに気づいていないようで…」

と、珍しく…嫉妬しているような吉澤…


「ごめんなさい。悪いのは…私ですよね?
紘一さんを裏切ることをしていて…、あなたにもその後ろめたい思いをさせている…」

悠夏は、今のこの状況をどうにかしようにも…打開策などなにも思い浮かばない…と、分かっていた…


「…兄からの使命で。
私も悠夏さまと沖縄に…来るように…と。」

吉澤は、強ばっていた表情を崩し…、一瞬、その表情を和らいだ…

「え?」

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