Contract marriage ―契約結婚

「常に、冷静なお前が動揺してるなんて…な」

さ程、表情の変化…がないと思っていたが…、紘一には全てお見通し…のようだ…

紘一は、吉澤の微妙な変化に、微かに笑みを浮かべた…

その、紘一の言葉に、吉澤は動揺を隠せなかった…

そぅ、ほくそ笑む兄に、背筋が凍りついていくように感じた…吉澤は、冷静さを保ちながら…その封筒を受け取る…

その中には、プリントされた…悠夏との密会現場の画像が何枚かあった…

「……っ」

血の気が…、引いていくのを感じた…

悠夏と2人で会うのは…、椎堂家の使用人やメイドたちが不在の時…、通いの人間が多い椎堂家で、屋敷の戸締まりをするのは自分の任務のはず…

「……誰が…っ？」
《誰が…こんなことを…っ？》


そのプリントアウトされた画像には、抱き合っている自分と悠夏…、ベッドの上で口付けを交わす2人…


「…紘一さま…、これは…っ」

と、何か…言い訳をしようにも…言い訳のしようがない…

明らかな証拠を突きつけられてしまっていたからだ…


あの屋敷には、紘一の味方をする人間もいる…ということだ。。


その次の瞬間…

紘一は、吉澤の身体を壁に押し付け、壁に叩きつける…、その首筋に手を掛け…

「よく…、俺の目を盗んで…俺の妻に手を出したな…？」

「……っ」

「立場をわきまえろよ？ お前は、ただの犬でしかないんだよ？
飼い主に、歯向かう…なんて、どういうつもりだ？」

そぅ、言葉を発しながら…狼狽えている吉澤にほくそ笑み…

首筋に手をかけていた…手を緩め…

紘一は、微笑みかける…

その笑みが、本気で怒らせている…と、見て取れるようだった…


やはり、自分は、この兄には適わない…、逆らえない…と。

「さぁ…、ここからが、交換条件だ」

掴まれた首筋に手をやり、咳き込みながら…吉澤は、紘一を見返した…

「『交換条件』？」

「お前に逆らう余地はない」

そぅ、睨みつけるように言った…兄の条件…それを耳にした直後…


「…まさか…、そのために？」

驚きの余り…、言葉を失った…