Contract marriage ―契約結婚
「あ…」
《殴ってしまった…》

と、思った時には、既に遅かった…

咄嗟にまずいっ!と、両肩をすくめた…


「ごめんさい…、いきなりで…」

その相手は、身体を離すと…悠夏の方を睨みつけ…

「どういう躾をしてるんだ? あの男は?」

と、怒鳴りつけるように、その言葉を吐いた…

「…あの…」

「…娘を俺にやるのが…そんなに気に入らないのか…?」

「…っえ?…お父さまは、そんなつもりは…っ」
《何を言ってるの?

この人は…っ?》

「どうだかな?
お前が、俺の妻になるのは、美崎の会社の為だけで…。それ以外には何も無い。」

「…父は、そんなこと…っ」

「だが…、椎堂の血が欲しいのなら…、抱いてやってもいい。」

その相手は、軽蔑するような目を向け…、悠夏と吉澤に背を向け、その部屋を出ていった…

「…なっ! なんなの? あの人…っ!」

と、あまりの言葉に、怒り心頭の悠夏…

「あの方が、次期 椎堂家当主の椎堂 紘一さまです。悠夏さまの旦那さまになる方です」

その吉澤の言葉に、言葉をなくした…

「あの人がっ。。」
《あの…人を人と見ないような人が、私の旦那さまになる人だなんて…

それに…、いきなり…キス…


初めて…だったのに…っ!》


先程の、引き寄せられ…重なった唇を思い出す…

少し…、一瞬…嫌悪感が駆け巡った…背筋が凍り付くかのような…

「……っ」
《最悪な…、第一印象だゎ…っ

なぜ、お父さまのことをあんな言い方をするの?》

と、ため息混じりに、この際、結婚を破談にしてくれれば…と、思うまでとなった…




吉澤に、案内され…悠夏は、寝室や自室に案内された

「では、失礼します。」

美崎家から持って来た荷物を運び終わった吉澤が悠夏に一礼する…

部屋から、出ていこうとした吉澤に…

「あ、ありがとうございます。吉澤さん…」

「悪い方ではないのです。ただ、あの方は、人を信じたことがない…。寂しい方です」

「……っ。信じたことが…?」

頷いてみせた吉澤は、部屋を出ていった…


1人…、部屋に残された悠夏…

ふぅ…と、大きなため息をついた…

「あの人と結婚っ?」

あまりに…、予想に反して…の展開に、足元から崩れ落ちそうだった…

「……っ」
《優しく…、迎え入れてくれると思っていた…

相手が、望んで…の結婚なら…》

予想に反して…の、反応に…悠夏は、哀しくなってくるのを感じていた…


帰りたいな…と、思わず思ってしまった言葉を、即座に打ち消した…


相手から、破談するのであれば…よいけど、こちらから断るワケにはいかない状況なのだ。


「あ、でも…あんな人だったなんて…」
《とてもじゃないけどっ

あんな人と、夫婦になる…だなんて、ムリだゎっ!》

…と、思っていた。。
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