空をつかむ~あなたがどこまでも愛しくて
私の絵とは言えども、正直お披露目できそうな絵はあの一点しかない。

醍の愛に満ち溢れていた時に描いたあの空に浮かぶゾウの点描画。

躊躇する間もなくその流れであれよあれよと決まってしまい、翌日、早速まほろば編集部まで私の絵を持参することになった。

普段と違う職場に出向くのは緊張する。

丁寧に風呂敷で包んだ絵を胸に抱え、まほろば編集部のデスクに急いだ。

「おおい、渡瀬さん!こっちこっち」

聞き覚えのある声が向こうから聞こえる。

声の方に顔を向けると、山田さんが手を振って笑っていた。

緊張していた体が一気に緩む。

「おはようございます!」

小走りで山田さんの方へ向かった。

編集部デスクの横にパーテーションで区切られた打ち合わせ場所に通される。

山田さんが風呂敷を広げていくのをドキドキしながら見ていた。

誰かに自分の絵を見てもらって評価されるなんて初めてだ。

ペンネームなしの渡瀬和桜の絵。

他人にはどういう風に映るんだろう。

「おっ」

風呂敷が取り除かれ、私の絵がむき出しになり山田さんが小さく声を出した。

どこかに隠れてしまいたくなる。

でも、これも展示会の役に立つため。踏ん張らないと。

山田さんの顔は見れなかったけれど、自分の絵をしっかりと見つめた。

家の中で見るのと違って、自分の絵はまるで自分が描いた絵ではないような気持ちになる。

私以外の誰かに見られているゾウはなんだか嬉しそうに感じた。



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