空をつかむ~あなたがどこまでも愛しくて
『無名の芸術家たち』展もいよいよ搬入の日当日を迎えていた。

自分の絵を搬入するのは不思議な気分。

展示品を摘んだトラックを待っている中、けたたましく事務所の電話が鳴り響いた。

出ると、まほろばの山田さんからだった。

『渡瀬さん?』

「はい。お疲れさまです。いよいよ今日搬入・・・・・・」

と言い掛けた私の言葉に被せるように山田さんが言った。

『TUYUKUSAと連絡がようやくついて、今作品がこちらに届いたんだ』

「え?」

『なんでも、TUYUKUSAは日本にいなくてね、国際空輸便のトラブルだったそうだ。期限までに彼は送ってくれてたみたいなんだがあちらの国の空輸便業者のミスで空港にストップしたまましばらく忘れられていたらしい。彼も出張続きで僕の送ったメールもなかなか見れなくて今日まで届かなかったってわけだ』

「そうだったんですね!間に合ってよかったです」

あの絵に会える。

胸の奥が騒いでいた。

っていうことは、私の絵はもう飾られることはないのね。

ちょっぴりショックだけど、ホッとしている自分もいた。

これでよかった。最初から企画されていたとおりの展示に戻っただけなんだから。

『で、ここから渡瀬さんに相談なんだが』

もう切れてしまったと思っていた電話はまだ繋がっていた。

『渡瀬さんのあの絵、とても気に入ってるんだ。もちろん僕だけでなく他の編集部のスタッフ達もね。そこで、もし君さえよければ展示数は一点分増えるが調整して渡瀬さんの絵も展示させてもらってもいいかい?』

「え?!」

それは思いがけない提案だった。


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