空をつかむ~あなたがどこまでも愛しくて
テーブルの上に置いてあったハムサンドと朝から沸かしてくれていたらしいコーヒーを飲み遅めの朝食を摂った。

そうこうしている間に12時が近づいてきたので慌てて顔を洗い化粧をする。

恐る恐る袖を通したドレスはフィットサイズだった。

コートを羽織り外に出て空を見上げると、淡い水色がどこまでも広がっている。

パリの空も日本の空も同じ空。

その時「プゥワン」という低音のクラクションが鳴り、目の前に一台のタクシーが停まった。

タクシーから長身の運転手が出てきて、すぐに私のそばに駆け寄り片言日本語で話し掛ける。

「あなたが『Ms.なお』?」

「は、はい」

その運転手は優しく微笑み頷くと車を指刺して言った。

「Mr.よしまるからあなたを迎えに来るよう言われました。Prease get in!」

「ありがとう、ございます・・・・・・」

このタクシーは間違いなく醍が手配してくれたタクシーだよね。

私は安心して乗り込んだ。

緊張している私のために気のよさそうな運転手は日本語で簡単な観光案内をしてくれる。

路上に面した煉瓦造りのモダンな店が連なり、全ての店の前には色鮮やかな美しい花が咲き乱れていた。

「4月は、フランスには一番いい季節。いい時に来たね」

運転手はそう言って楽しげに笑う。

そうなんだ。

今の季節が一番いい季節。

青空と茶色い屋根と色鮮やかな花たちに見送られながら、醍のいる文化会館に到着した。





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