空をつかむ~あなたがどこまでも愛しくて
彼女はにこやかに私の肩に手を置き、鏡に映る私に話し掛けた。

「私は吉丸美登里。このパリで美容師をやってるの」

「吉丸さん?」

「醍の従姉になるわ。パリに来てもう10年は経つかしら」

「そうなんですか!失礼しました。私、どうなってるのか全くわからなくてポケッとした顔で座ってしまって」

「ふふ、醍から話に聞いていた通り楽しい女性ね。大丈夫よ。そりゃそうよね、到着早々こんな場所に通されて、ヘアとメイクアップ担当しますなんて言われちゃますます訳がわからないわ」

美登里さんは薄い茶色の髪の色をしていてフワフワのボリュームのある髪型を後ろに一つで束ねていた。

とても色が白くて小柄でかわいらしい女性。

年齢はもうすぐ40だと言うけれど、とてもそんな風には見えない。

「醍って昔から「こう!」って思いついたら突っ走っていく人間だわ。だから一緒にいて飽きないでしょう?でも、今まで彼の判断には間違いがないの。きっと天性の勘の良さが備わってるのね。だから安心して乗れる暴走列車よ」

安心して乗れる暴走列車という表現があまりにも的を得ていて思わず噴き出す。

「和桜さんは落ち着いていて素敵な女性。醍があなたに夢中になるの、すごくわかる。きっと和桜さんには醍にないものを持ってるのね。二人はとてもお似合いだと思う」

どことなく醍に似た目元が優しく笑う。

そんなこと言われて無意識に頷いてしまった自分が恥ずかしくなって顔が熱くなった。
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