空をつかむ~あなたがどこまでも愛しくて
部屋を出ると先ほどの森山さんが待っていて、早足で会場ステージの舞台裏に案内される。

どうしよう。

この期に及んでドキドキで胸が張り裂けそう。

森山さんの背中に尋ねた。

「あの、醍さんは?」

彼はくるりと私に顔を向けると、これまでのクールな表情を一変させてにこっと笑う。

「あちらにいますよ」

見るとステージの入り口付近に誰かが立っていた。

ステージからの明るい光が差し込み、丁度逆光になって顔が見えないけれど、紛れもなくその姿形から醍だとわかった。

「醍!」

思わず叫んで彼の元に走っていく。

森山さんと同じ黒いスーツに身を包んだ醍は見たこともないくらいに表情が固まっていて、私の顔を潤んだ瞳でじっと凝視していた。

醍も緊張してるのかしら?

それとも、私、おかしい?

「似合ってる、かな」

足下に目をやったまま小さく呟く。

「似合ってるとか、そういうの通り越してる」

「それってどういう意味?」

「俺にとってはドレスなんかよりも和桜が一番美しくて輝いてる。とてもきれいだよ」

そして、周りにスタッフがたくさんいるというのに、私を柔らかく抱きしめた。

「俺のドレス、着てくれてありがとう」

その言葉に泣きそうになる自分をぐっと堪えて「私こそ」と彼の胸の中で伝える。

「さ、お時間ですよ。こちらへ!」

スタッフの一人に促され、私達は舞台の袖に手を繋いで向かった。

「俺がエスコートして出ていくから。和桜は何も心配いらない。君のとびきりの笑顔を振りまいてさえしてくれればいいから」

「とびきりの笑顔って、また難しいこと言うわね」

少し澄ました彼の横顔を見つめながら、『安心して乗れる暴走列車さん』と心の中で呟いた。
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