空をつかむ~あなたがどこまでも愛しくて
「話題変えようか」
私の表情が一瞬強ばったことに気付いたのか、吉丸さんはさらっとそう言うと、箸を置きお茶を飲む。
「そういえば和桜さんの描いていたゾウは、結構描きためてるの?」
「そうね。描き始めて一年になるかしら。スケッチブック三冊くらいかな」
「へー、すごいね。誰かに見せたりしないの?」
「しない」
「どうして?」
「誰かに見せたくて描いてる絵じゃないから」
「じゃあ、何のために描いてるの?」
彼はお刺身をぱくっと口に放り込んだ。
「自分のため」
そう答えると、私もお刺身を口に入れた。
「自分のため?」
それ以上は言いたくなかったから、頷きもせず私はさらにお刺身を頬ばる。
「自分のため、か。なんだか深いね」
彼はお茶を一口含んで続けた。
「だけどもったいない、あんな素敵な絵を描くのに」
「どうってことのない絵だわ。誰かに見せたところで世の批評家達がこぞって批判の対象にされそうなおもしろみのない絵」
「批判されるのが嫌?」
「正直、誰かの目に触れてああだこうだ批判を受けるのは恐いわ。好きで描いてるだけの絵に対して、そんな批判を受けとめるだけの強さが私にはないから」
「批判されるのが前提だね。評価してくれる人もいっぱいいるんじゃない?」
吉丸さんは湯飲みを片手に持ったまま軽く笑った。
「俺なんか批判されまくり、傷付けられまくりの人生だけどね」
そんな風には見えないけれど、敢えて言うのはやめた。
「だけど不思議と傷付けられたら、その傷から自分の殻を破れたりするんだよね。傷付くたびに、一枚ずつ剥けていって、そのうち本当の自分が中から現れるような気持ちになってくる」
「なにそれ」
彼の自虐的な言い方に思わず笑ってしまう。
私の表情が一瞬強ばったことに気付いたのか、吉丸さんはさらっとそう言うと、箸を置きお茶を飲む。
「そういえば和桜さんの描いていたゾウは、結構描きためてるの?」
「そうね。描き始めて一年になるかしら。スケッチブック三冊くらいかな」
「へー、すごいね。誰かに見せたりしないの?」
「しない」
「どうして?」
「誰かに見せたくて描いてる絵じゃないから」
「じゃあ、何のために描いてるの?」
彼はお刺身をぱくっと口に放り込んだ。
「自分のため」
そう答えると、私もお刺身を口に入れた。
「自分のため?」
それ以上は言いたくなかったから、頷きもせず私はさらにお刺身を頬ばる。
「自分のため、か。なんだか深いね」
彼はお茶を一口含んで続けた。
「だけどもったいない、あんな素敵な絵を描くのに」
「どうってことのない絵だわ。誰かに見せたところで世の批評家達がこぞって批判の対象にされそうなおもしろみのない絵」
「批判されるのが嫌?」
「正直、誰かの目に触れてああだこうだ批判を受けるのは恐いわ。好きで描いてるだけの絵に対して、そんな批判を受けとめるだけの強さが私にはないから」
「批判されるのが前提だね。評価してくれる人もいっぱいいるんじゃない?」
吉丸さんは湯飲みを片手に持ったまま軽く笑った。
「俺なんか批判されまくり、傷付けられまくりの人生だけどね」
そんな風には見えないけれど、敢えて言うのはやめた。
「だけど不思議と傷付けられたら、その傷から自分の殻を破れたりするんだよね。傷付くたびに、一枚ずつ剥けていって、そのうち本当の自分が中から現れるような気持ちになってくる」
「なにそれ」
彼の自虐的な言い方に思わず笑ってしまう。