空をつかむ~あなたがどこまでも愛しくて
そのあまりに整った優しい笑みに思わず顔が熱くなり目をそらす。

初対面だというのに距離感の近いタイプは、いくらきれいな顔してたって苦手だ。

「ゾウ、好きなの?」

彼は私を試すような視線を向けて尋ねる。

黙ったままの私をさほど気にする様子もなく彼は続けた。

「俺もゾウが好き。動物園に来たらゾウだけ見て帰るくらいにね」

あかの他人からの個人的な質問を受け付けるほど私にはまだ心の余裕はない。

私は軽くため息をついて前を向いた。

「あのさ」

完全無視を決めている私の横顔にまた彼の声がぶつかってくる。

「話せないの?」

・・・・・・面倒臭い。

ため息をつきながら彼の方に顔を向けて呟くように言った。

「話せるけれど話したくないだけ」

そう答えた直後、彼の目元が緩んで一気に少年のようなキラキラの笑顔になる。

「俺は吉丸醍(よしまるだい)、26歳。君の名前は?」

私は口をあんぐり開けて、そんな浮世離れしたような空気をまとっている彼をじっと見つめた。

26歳って、私より4歳も年下。大学を出てそこそこのまだ世間を知らない若者はこれだからやっかい。

その時、急に強い風が吹き上げて乱れた前髪を押さえながら言った。

「だから話したくないって言ってるでしょう?」

そして、私は前方で我関せずな表情でゆらりと揺れているゾウに目を向ける。






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