空をつかむ~あなたがどこまでも愛しくて
「しばらくかくまってくれないかな」

「・・・・・・は?!」

一瞬彼の言った意味を理解できなかった。だって、かくまってだなんて生まれてこの方三十年、誰かに言われたことのない言葉だったから。

「和桜さんが今一人暮らししてるって言ってたのを思い出してさ。和桜さんの存在は俺の家族は誰も知らないから身を潜めるには一番いい場所だって気付いたんだ」

醍の横顔からは、そんな大それたこと言ってるような空気は微塵も感じられず、逆に当たり前の結論に達したという満足げな表情にさえも見える。

やっぱり、吉丸家の御曹司だから、こんなことも平気で言っちゃえるの?
女性の家に転がり込むことが、世間体でどうなのかってことくらい判断もつかないのかしら。

「急なことで本当に申し訳ないと思ってる。落ち着いたらこのお礼はきちんとさせてもらうよ」

「っていうか、もう決定みたいな言い方しないでよ」

思わず語気が荒くなり、慌て口を押さえる。

「え?」

醍が私を一瞥する。

「あなたはいつだってそう。自分の意思が最優先で、勝手に人を巻き込んでどんどん決めていっちゃう。醍さんと顔を合わせたのはたった三回だけど、どれも全て同じ展開だわ」

「そうかな」

「そうよ」

あまりにもすっとぼけた表情で言う醍の横顔からぷいと顔を背けた。

「そんなつもりはないんだけど、そうなってたんなら謝るよ」

なんとなく元気がなくなった彼の声に胸がちくっと痛む。

そう、こんな風になるから私がいつもほっとけなくなるだけ。

最終決定してるのは、全部私なのに。









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