空をつかむ~あなたがどこまでも愛しくて
「お父様は、こういうことを反対されていたのね」

醍さんは、うなずくとノートブックとビーズをバッグに丁寧に仕舞う。

「京友禅にポーチもビーズも邪道だってさ」

そう言うと、自嘲気味に微笑んだ。

「でも、俺絶対やってみせる。親父をあっと驚かせて認めてもらうよ。そのためにはまず職人さん達の力が必要なんだ。今、親父には内緒で大学時代の友人や、うちの職人さん達に俺の製作に手を貸してもらえる知り合いを紹介してもらえないか頼んでる」

「もう動き出してるのね。醍さんならきっとできるわ」

強い意思のこもった彼の目を見たらそんな言葉が口をついて出た。

そのあまりにも壮大な夢は、まるで無我夢中に空をつかむようなものなのかもしれないけれど、その先にしっかりと手に触れる何かをつかむような彼の生き方そのもののような気がした。

彼から受けるエネルギーはまるでそばにいるだけでその力がチャージされていくのかもしれない。

だって、私自身、彼と出会ってから随分変わったもの。

こうやって、彼と二人で部屋にいるってこと自体が以前の私からは考えられない。

二人・・・・・・そっか、今日からしばらく二人なんだ。

ベランダに面した窓がうっすらとオレンジ色に染まっていた。

キッチンの掛け時計に目をやると、もう17時にさしかかろうとしている。

「夜ご飯、どうしようか。外に食べに行く?」

私は空になったコーヒーカップをキッチンで洗いながら彼に尋ねた。
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