空をつかむ~あなたがどこまでも愛しくて
「私・・・・・・大丈夫だから」

その言葉を発した途端、自分の抑えていた何かが一気に溢れだす。

彼もまた同じ気持ちだったのかもしれない。

醍は強く私を抱きしめると、深くて甘くて長いキスをした。

愛おしい誰かをこんなにも求めたいと思ったことはあっただろうか。

求め合いながら、色んな過去の思い出が現れては消えていく。

それは、元彼とのキスだったり、珠紀が彼と別れてと告白してきた時の目だったり、幼い頃砂場で一生懸命造ったお山が友達に踏みつぶされたことだったり。

「和桜、とてもきれいだよ」

彼は乱れた私の前髪を掻き上げながら、潤んだ瞳で微笑んだ。

彼の汗ばんだ背中をぎゅっと抱きしめながら、私達がこの先どうなっていくのかふと不安がよぎる。

人の気持ちは水のようだ。

たちまち流され、再び同じ場所に戻ることはない。

今の気持ちは今だけのもの。

それを留めておくことは私にも彼にもできないんだとしたら、いつかは別れなくてはならないときが来る。

醍は、吉丸家の御曹司。

世界に羽ばたいていくデザイナーになるような彼とどうこうなろうだなんて考えるだけでも烏滸がましい。

このままずっと一緒だなんてどう考えたってあり得ない。

彼の目や唇、そしてこれから何かを生み出していくであろう繊細な彼の指が私の体を優しく甘くなぞっていく。

そのたびに震える体はそんな不安を一瞬だけ忘れさせてくれた。

ずっと彼に抱かれていればそんな不安はなくなるんだろうか。

この手を、この体を感じている間は彼はここにいて掴めているんだから。

「和桜?」

彼の体が私から離れ、心配そうな目で私の顔をのぞき込んだ。

「泣いてるの?」

「え?」

自分の手を頬に当てると、冷たい涙が触れた。

私、泣いてた?

「ごめん」

醍はそう言うと温かい胸に抱き寄せ、私の髪をゆっくりと撫でる。

「醍は温かい」

彼の胸に顔を埋めて呟くと、醍は少しだけ笑った。









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