空をつかむ~あなたがどこまでも愛しくて
その日はなかなか寝れなくて久しぶりにスケッチブックを取り出す。

醍が家に転がりこんできてから、動物園には行っていない。

あのゾウは元気にしてるだろうか?

目をつむり、いつものように鼻をもたげて私に挨拶してくれるゾウを思い浮かべる。

なぜだかゾウの隣には彼が笑ってる。

ゾウは美しい青空に浮かんでいた。そしてその姿はだんだんと白く透き通っていく。

消えてしまいそうになったゾウは空に飲み込まれそうになるけれど必死にその存在を知らしめるかのように自分の鼻を大きく持ち上げた。

透き通ったゾウと空が美しく一体化している。

そんなイメージが浮かび、夢中になってスケッチブックに色を塗り、白いペンを打ち付けるようにして描く。

ようやく描き上がった絵をテーブルに置き、スマホに目をやると夜中の二時を回ったところだった。

こんなに時間も忘れて描き上げたのは初めてじゃないだろうか。

必死に描いたせいか腕が重くなっている。

しかも、自分の頭に浮かんだイメージだけで描くなんてことも今までしたことがなかったこと。

目の前のスケッチブックのゾウは、自分が描いたとは思えないような絵だった。

ペンを細かく打ち付けて描いた点描画。

線ではなく点で描いたゾウは実体があるようでない、ないけれどそこにある不思議な存在の絵になっている。

ふと、醍の姿が思い出された。

空の色に溶けてしまいそうな彼の横顔とそのゾウが重なる。

こんな絵が描けたのもきっと彼と出会ったからだ。

彼と出会わなかったら、こんな絵を描く自分はいなかった。

ゾウの前で、ただひたすらにゾウのデッサンをしているだけだったに違いない。

恋は創造する力も養ってくれる。だからこそ、その創造力で色んな不安も感じてしまうのかもしれないけれど。





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