空をつかむ~あなたがどこまでも愛しくて
「内緒」

「イジワルだなぁ」

私は口をとがらせてわざとらしく言った。

「だって、無名の芸術家たち、だよ。わからないように応募するわ。だから和桜ちゃんも気負わなくて大丈夫。もし応募したい自分の作品があるならペンネームで出せばいいのよ」

そうか。

無名・・・・・・なんだ。

誰だかわからない。

誰かがどうこう批評しようと、それは私じゃない誰か。

もう一人の私の作品。

昨晩描いた空に浮かぶゾウを、もう一度見直してきちんとキャンパスに描いてみようか。

ふと、そんなことを思っていた。

コンセプトもまだ決まらないのにね。

「TUYUKUSAさんもまた出展決まるといいわね」

植村さんがニヤニヤ笑いながら私を見る。

「どこの誰かもわからないのに、そんな冷やかした言い方なんかしたりして。植村さん変なの」

そんなおどけた調子の植村さんに噴き出す。

彼女は再び自分のデスクまで椅子を滑らせると腕をまくりながら言った。

「さ、とりあえず仕事片づけちゃおう。企画もそれぞれで考えて、来週にでも二人で打ち合わせしましょうか」

「はい」

私は頷いた。

自信はないけれど、植村さんとならできると感じた。

一人じゃない。

私のセンスを褒めてくれる人だっている。

醍は今頃どうしてるんだろう。

お父さんとはちゃんと話せているのかな。

今日は・・・・・・帰ってくるだろうか。

私も植村さんと同じように腕をまくって机上の書類の仕分け作業を始めた。


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