空をつかむ~あなたがどこまでも愛しくて
「おいおい、まるで俺がイジワルな人間みたいな顔して見るなよ」

「イジワルですよ!」

山田さんの部下の一人が突っ込むと、編集部の人達はどっと笑う。

思わず、これまでの緊張の糸がほぐれて私も笑った。

「そうだな。ま、ペンネームくらいは教えてもいいか。くれぐれも外には漏らすなよ」

山田さんは自分の口の前に人差し指を立てて、皆の顔を軽くにらむ。

チーフは自分の背広の内ポケットから手帳を取り出し広げた。

なぜだか私までドキドキしている。

「まずはぁ、そうだなプライベートでも絵がうまいって評判の俳優さんなんだが『W>T』って名前で出してる」

「あ、あの色鮮やかな抽象画ですか?」

植村さんがすかさず目を見開いて身を乗り出す。

相変わらずな植村さんに思わず噴き出してしまった。

「そうだそうだ。よく覚えていたね。今回もお願いしたら快諾してくれたよ。あとは、『佐久間』っていう人。彼はミュージシャン。今回初めて出展になる漫画家『トモヤ』。それからぁ・・・・・・」

チーフの口もとをじっと見つめる。

「ほら、渡瀬さん、君がラストに展示を決めた『TUYUKUSA』。今回も出してくれそうだよ」

その名前を聞いただけで体中が震えた。

また会えるんだ。あの人の絵に。

「よかったわね、和桜ちゃん。あなたの心の恋人。今回はどんな絵を描くのかしら」

植村さんはいたずらっぽい表情で私に耳打ちした。




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