【最愛婚シリーズ】極上CEOにいきなり求婚されました
午後三時。

わたしはふと思い立ったように、実家の周辺へ散歩に出かけた。

小さい頃よく遊んだ公園。今は亡き父と自転車の練習をした河原。百円玉を握りしめて通った近所の駄菓子屋は今はコンビニになっている。

ここにあるひとつひとつが、今の自分を作ったのだと思うと感慨深い。

今までは田舎暮らしが嫌で、この土地をこんなふうに感じたことなんてなかった。

忙しさにかまけて、大切なモノをたくさん見落としてきたのだと思うと今の自分を見つめ直すよい機会になった。

ゆっくりと思い出にひたりながら歩いていると、一軒の建物にたどり着いた。この古びた建物もわたしの優しい記憶の中にあった。公民館だ。

田舎のこの街には図書館がなく、バスか電車に乗って隣町まで行かなければならなかった。

その代わりにこの公民館の一角に小さな図書室があったのだ。

月に一度は移動図書館がやってきたり、楽しみにしていたのを覚えている。

「あ~懐かしい」

思わず中に足を踏み込んだ。

確かに古いが、今も町民に大切につかわれているのか手入れは行き届いている。

「たしか、こっちの方が図書室だったはず――あった」

二つ目の角を曲がった先に小さな部屋があった。

今も昔と変らず扉は開けっぱなしで、入り口には有名な絵本の赤と青の帽子をかぶったネズミのキャラクターがパンケーキを焼いている絵が貼ってあった。

中は無人。あの頃も借りたい本があると公民館の受付にもっていけば処理をしてくれていた。

わたしはゆっくりと本棚の中を歩きながら、小さい頃の自分が好きだった本を探す。
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