【最愛婚シリーズ】極上CEOにいきなり求婚されました
「そうだったね……」

おぼろげだった記憶がどんどん鮮明になっていく。

小さなケイくんの手をひいて歩いてここに来たときのことを思い出した。

「あのときも、ふたりでここに来てそれでこの本を俺に読んでくれたんです。【星の王子さま】」

たくさんの人に読まれ、経年劣化も激しい本。

あのころは、もっと綺麗だった。

「〝大切なことは目に見えない〟この本の中で一番好きな文章だって、芽衣子さんが言ったのを今でも覚えています」

ぺらぺらとページをめくっていた彼が「ここだ」と言って開いてこちらに見せる。

わたしも彼に近付いて本をのぞき込んだ。

たしかにここのお話がすごく好きで何度も読んだ。

ケイくんにその話をしたのも覚えている。

そこでやっと納得できた。彼がどうして『昔のあなたはこんなんじゃなかった』と言った意味が。

たしかに――あの頃のわたしは今みたいに打算的な考えなんてしていなかったと思う。

数字や見かけから判断できるものよりも、もっと自分の好きなモノや大切にしたいものを知っていた。

いつから自分の中の大切なものを無視して生きていくようになったんだろう。

この本を読んでいたときに、こんな自分になるなんて思ってもみなかった。小さい頃の自分に申し訳ない。

情けなさで胸がいっぱいになったとき、ケイトがわたしに頭をさげた。
< 114 / 129 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop