【最愛婚シリーズ】極上CEOにいきなり求婚されました
「嫌よ、わたしを騙して面白がっている人なんて」

「言っておきますけど、騙していたつもりはありません。話をしなかっただけ。俺は肩書きや学歴や資産じゃなくて、ただの俺として芽衣子さんと向き合ってきた。それのどこが悪いの?」

たしかにケイトはいつも誠実だった。
出会った日以外は、無理に体を求めてくることもなかったし、いつもわたしの意見を聞いてくれた。だからこそ、わたしも彼に惹かれたのだ。

「そんなの……詭弁よ。隠し事されるなんて信用できない」

そうとしか言い返せなかった。

ケイトは髪をかき上げながら、大きく息を吐いた。

「『信用できない』か……。結構きついな。芽衣子さんにとって、結局俺が何者でも受け入れてくれないってことだ」

小さな声だったが、十分聞こえた。

わたしはハッとして彼の顔を見たが、すぐに逸らされてしまう。

わたしを全身で拒絶している。そうさせたのは自分なのに、どうしようもなく悲しくなってしまって、わたしはうつむき、膝の上で拳を握りしめた。

数分間、沈黙がふたりの間を包み込んだ。

「昔のあなたはこんなんじゃなかった。まわりの意見じゃなくて、自分が正しい道を進んでいた。そんな芽衣子さんがかっこよかったし、好きだった」

顔を上げると、苦しそうな表情を浮かべるケイトと目が合う。

「いったい、何の話?」

昔って、どういうこと? まったく思い当たらない話をされて困惑する。

「別に、今更どうにもならないことですから。今のあたなにはがっかりです」

ケイトがおもむろに立ち上がった。その様子をわたしは見つめることしかできない。

「俺、帰ります。芽衣子さんは何か召し上がって帰ってください」

浮かべた笑顔が痛く悲しそうで、わたしは自分のしたことが正しかったのかどうか分からなくなってしまう。
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