総長さんが甘やかしてくる③
『自分の通報が、逆に彼女の幸せを奪うかもしれない。あれは誘拐なんかじゃない。そう、判断したみたいですね』
――夕烏の幸せ?
『もっとも、失踪した少女とよく似ていて特徴が一致していたものの、随分と雰囲気が違っていて情報提供に踏み切れなかった、というのもあるみたいで。それがこの失踪事件が明るみにならないでいる一つの要因だったのです』
たしかに
会うまでは、とても信じられなかったが。
夕烏の態度を見る限りでは、自分の意志で、決めたようだった。
幼い頃、両親を亡くし。
あの女に居場所も金も奪われ。
身も心も傷だらけになり、ろくな人生を歩んでこなかった夕烏が。
自分の足で、そこに立っているように見えた。
再会した夕烏をひと目見て、直感がはたらいた。
探偵の言うとおり夕烏は上手くやっているのだと。
あの夕烏が、町のパン屋で、働いていた。
「……店の人間にも。気に入られているみたいだったな」
知らないうちに、社会に出て。
周りのやつらに支えられていた。
大切にされていた。
――それが、俺は、嬉しかった。