総長さんが甘やかしてくる③
「あのね、幻。ここ、お父さんの趣味でやってるの。そんでもって、あたしの隠れ家」


そう話す霞は冒険に出てわくわくするような顔で、ボロいと言いながらもそこが大切な場所なのだと伝わってきた。


「小さな頃にママと喧嘩したらこもってた。まあ、もう隠れ家にはならないから、有効利用してね!」

「珍しいもん置いてあんな」


趣味でやっているだけあってマニアックなもんから儲けなんて考えていなさそうな商品まで並んでいた。


「そうなの? あたしは詳しくはないんだよね。全部ガラクタに見える……あ、でも」


そのとき霞が指さしたのは


「これ、かわいい」


シルバー色で桜模様の入った
フルフェイスのメットだった。


「えーい。値札はずしちゃえ」

そういって商品と別の棚に置かれたメットを。

霞は、いつか、かぶりたいと言っていた。


「ねえ。一度でいいから乗せてよ。夏休み中、またここに帰ってくるから」

「やめておけ」

「なんでー。幻の後ろ乗れたら泣いちゃう」

「……泣くなよ」

「泣くよ。絶対に。嬉しくて」

「どうして『もう隠れ家にはならない』と?」

「あー、それはね。うち離婚してて。お母さん、お父さんのこと大嫌いだし。新しいお父さんにも、気を使うし。やんなっちゃうよ。板挟みっていうの? まあ、これもダメおやじが、しっかりしてないからなんだけどさ」


そう言って無理に笑顔を作った霞に

俺がそのヘルメットを被せてバイクの後ろに乗せてやる日は、こなかった。
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