総長さんが甘やかしてくる③
『本当に一人でやっていくのか? 生活資金はもちろん、なにか始めたいというなら投資だって惜しまない』
祖父とは表向きに関わりをたったが、今も繋がっている。
いつかまた俺が高清水の家に戻ることを期待しているのだろう。
ずっと育ててもらった恩を忘れたわけじゃない。
それでも自分のような人間があの家に居続けることに疑問は捨てられない。
俺は、親父が、家の外で作った子だ。
兄らから腫れ物扱いされるのはそれが理由だ。
ある女から生まれた俺は高清水家の養子としてもらわれ、十五年育てられた。
生みの親の顔も知らないまま。
礼儀作法、教養を身につけろと専属の講師を雇われた。
俺が名家の跡取り?
考えられるわけなかった。
それも、ただ、責任を丸投げして窮屈な世界から抜け出して自由になりたかっただけなのかもしれない。
「来てたのか」
「へへ」
霞はよく俺に会いに来た。
母親にバレたら叱られるという想いと
今の父親に対して負い目を感じながらも
楽しそうに、俺の傍で過ごした。
俺が会話に参加せずとも一人で喋り続けるようなやつだった。
「幻、なんで高校やめたの?」
霞は、当然ながら廃工場での一件を知らない。
だから俺を取り巻く環境が途端に変わったことを疑問に思っていて。
だからといって、俺がその疑問に答えることはなかった。
「そろそろ帰れ。電車なくなるぞ」
「朝帰ろうかなー」
「送ってやる」
「え!?……いや、幻にそんなことさせられないよ」
マイペースなやつだが、人一倍、気を使うところもあった。
「帰らなくても。どうせ心配されないよ」