総長さんが甘やかしてくる③


「付き合っちゃえば?」


そんな風にやじってくる木良と


「青春だねえ」


俺のことを歓迎ムードで出迎えたオッサン以外に、霞と俺の仲を知る人間は、そういなかったように思う。


そんな平和な暮らしが続いていたある夜、
黒梦の倉庫で俺は木良に告げた。


「あそこは、もう出ていく」


理由は、霞だった。


「あんなに懐いてるのに。突き放すの?」

「霞は俺に依存している」


俺でなく、もっと別のものに興味を示した方がいいと考えていた。


「でもさ。なんだかんだ、幻だって楽しいでしょ。霞といるのは」

「……だとしても。霞の求めるものを俺はやれない」


霞から、ファン以上の感情を感じていた。


俺は霞のそんな期待に応えてやる気がなかった。


「一緒にいて手を出しちゃいそうにならないの?」


俺を男としてみてくる霞に、一度もそういう気分にならなかったといえば、嘘になる。


「それってどうなの。十六の男とは思えないね」


手を出せないのは、霞に女性的な魅力を感じないからではなかった。


木良の幼なじみであり世話になってるオッサンの娘というだけで、そういう対象にはならなかったし。


あの頃の俺は、愛がなにかも知らず。


なによりも、あいつを守ってやれないと考えた。


だから、離れようと思った。


もしもあいつが俺の特別になれば

霞は、稔のようになると――……。


「それとも幻は、もう他人を近寄らせて傷けたくないし。傷つきたくないのかな」
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