総長さんが甘やかしてくる③
ある連絡を受け俺が向かったのは、
ひと通りの少ない山道だった。
起きたのは、バイク同士の衝突事故。
そんなに珍しいことでもなかった。
厄介なのはそのあと、暴動でも起きたらその方が大事になるのだが――。
「事故ったってのは。そいつとか」
「はい。すみません……完全にこっちの前方不注意です」
見ると、相手は軽く怪我をしていて
俺とそう年の変わらないくらいのガキで
怒る様子もなく、静かに佇んでいた。
……タバコを吸って。
「うちの者が迷惑かけたな」
「帰らせてもらう」
俺を見ずにそう言い放つ男は一秒でもはやくこの場から逃げたいといった様子で。
それでも俺が駆けつけるまでそこにいたのは
「すまなかった」
いちライダーとして、人として事故を起こし逃げる選択はなかったということなのだろう。
明らかに未成年なのに咥えているタバコ。
人相の悪さ。
とは裏腹な、律儀さ。
「治療代と修理代は。俺が――」
「そんなもの、いらない。頼む。俺と会ったことは忘れてくれ」
やがて
俺をまっすぐに見てきた男と目が合い、確信した。
ああ、こいつも
なにかを抱えているんだと。