総長さんが甘やかしてくる③
「幻さん。そいつ、マジ運転うまいっす。あのタイミングで俺をよけて、お互い軽い怪我で済むなんて。正直、命はないと思ったのに」
「そうか」
その男が、最近チーム内でウワサになっていた、バイクを巧みに乗り回す男だと判明した。
「今、幻……と言ったか。ひょっとして、黒梦の幻か?」
「俺のことを知っているのか」
「知らねーよ。噂でしか。だが……やはり噂というのはあてにならないらしいな」
「期待はずれか?」
「逆だ。君のような頭なら。ついてくる者もいるだろう」
「そりゃどうも」
「どうか、俺にここを走ることを許可して欲しい。迷惑はかけない」
縄張りなんて、ない。
無所属なら、尚更、好きに走ればいい。
そう俺は考えていた。
そう言ってやる選択肢もあった。
ただ、このときの俺は。
「勝負しろ」
「……なんだと?」
「勝てたらその願い、聞き入れてやるよ」
目の前の男と、関わりたくなっていた。
チームをこえて他人と関わることを恐れていたのに。
そいつに、一歩踏み込んだ。
どういうわけか、踏み込まずには、いられなかった。